視覚系の壁
この記事は壁アドベントカレンダー2025の記事となります。
こんにちは、解説役のれぞらぼ太郎です。
聞き手役のLLM太郎です。
壁アドベントカレンダーも10周年ということで、まずはおめでとうございます!自分が定年退職するくらいまでは続けてほしいですね!
うーん・・・
はい?
まず、内輪ネタすぎてわからないんですけど、壁アドベントカレンダーってなんですか?
ぶっちゃけ自分もよくわかってないのね、これがなんなのか・・・
ただ記録を辿ると、元々はボルダリング関係のネタを集める予定だったらしいのね。そんで当時のD進勢を集めてボルダリングの記事集めよう的な
ほう
初日は良かったんだけど、途中から全部ぶち壊した人がいて、それから適当なことをなんでも書いてよくなったアドベントカレンダーになったと理解しています
それがちょうど10年前となると、そこからだいぶ機械学習界隈の様子は様変わりしてきたんじゃないですか?
そうそう、一番大きい変化はLLM太郎の台頭ですよね。当時はhypeを避ける目的で、AIとは呼ばず機械学習もしくは深層学習と明示的に呼称するのが正しいという流れだったけど、LLM以降はもうみんな気にせずAIと言っとりますよね
コーディングも様変わりして、Jekyllで対談形式のブログ書きたいと指定するとドラフト書いてくれるし、便利な時代になったもんです
codexしか勝たん
この記事について
前回のアドベントカレンダーの記事を眺めてたんですが、前は生成AI界隈の謎テクニックとかいう題でYouTube動画作ってましたね
そう、そんでakbさんと対談して、そのときに進化的モデルマージの原型ともよばれる複数のテクニックについて話されてたんやけど
まさか対談の後ちゃんとした形に発展させて論文あげるとは思ってなかったですね。これはもう壁アドベントカレンダーの功績の一つと言っても、過言でわない・・・
くさ
それはさておき、前回のアドベントカレンダーから2年間の間になにか進展はありましたか?
退職もありますけど、ライフイベントの一番の変化は子供が生まれたことですよね。結婚は生活スタイルがあまり変わらなかったけど、出産はむちゃくちゃ変わる。そんでそこからてんてこまいの日々を過ごしとるわけですが、一番大変だったのは子供がNICUにいたときなんよ
NICUというのは、小児集中治療室の略ですが、そこに出生後お子さんがしばらく過ごしていたということですか?
そういうことです。NICUにいる赤ちゃんで大変じゃない赤ちゃんはいないのよ
出産後いきなり小児科医の先生が現れて、大変な状態ですが最善を尽くしますーとか現状を説明されて、あらゆるリスクについて語られて、膨大な量の書類にサインしつつ、これは大変なことになった、どうなるんだ、妻は、赤ちゃんは、覚悟、覚悟だけは決めなくては・・・みたいに思いながら日々を過ごしたわけです
ほう・・・(ノーコメント)
その顛末はここでは控えますが、まあとにかくその過程の中で経験しながら調べてみて、そこで胎児と赤ちゃんの目の成長過程についてはじめて知ったの
え
ニューラルネットを使ったコンピュータビジョンの研究者なのに知らなかった??
うるさいですね・・・
とにかく、胎児や赤ちゃんの目の成長過程とか、どういった目の疾患になりやすいかとか、どのような撮像機器で診断しているかとかの話は、コンピュータビジョンの研究者だとそれなりに興味持てると思うので、今回はその話になります
一応補足ですが、今回の話は自分の専門外の話ですので、一応信憑性は引用元を確認しながら慎重に書いていますが、当然ながら誤りがあるかもしれません。できるだけ間違いを起こさずに現状を俯瞰できる記事にするよう努力はしていますが、ある場合は指摘いただけるとありがたいです
未熟児網膜症 (ROP: Retinopathy of prematurity)
まず一般論として、NICUにいる赤ちゃん、低出生体重児は他の正期産児と比べて重篤な疾患や障害をもつリスクが高くなります
その中でも特に起こりやすい疾患の一つが目の病気です
なんでなんですかね?
まずは目の構造から簡単におさらいしていきますか。解説よろしゅう
「MSDマニュアル(家庭版)眼の構造と機能」より引用
はい。眼球の角膜に入射された光は、虹彩、水晶体などの器官を通して、最終的にカメラでいうイメージセンサーの役割をもつ網膜へ送られます。網膜は光を感じる細胞(視細胞)がぎっしり詰まっており、視細胞は光を電気信号に変換し、脳へ伝達します。視細胞には桿体と錐体があり、暗所では桿体が、明所では錐体が「明るさ」と「色」の両方を担当します。
複雑な構造やね。そんで、網膜には視細胞のほかに、その視細胞に栄養を与えるための毛細血管も詰まっている。その血管の完成が他の器官に比べて遅いんよね
そこ不思議ですよね、目って生きていく上で重要なセンサーなのに成長が遅いなんて
そうなんだけど、肺や心臓と比べてしまうと、胎児のうちからフル稼働する必要は特にない器官でもあります。胎内でくっきり見えるようになってもしゃーないところあるし・・・
説明してもらった通り、目というのはむちゃくちゃ複雑で繊細なセンサーだから、それを胎内で急に作るのは難しいところもあります。なので、生存戦略としてまずは目の中心部から血管を作り始め、時間をかけて周辺部へ伸ばしていく戦略をとっている
なんだけど、早産児の場合は血管がまだ伸びきっていない段階で外界に出てしまうんよね
なので視覚関係の疾患が起こりやすいと
はいです。特に起こりやすい疾患は未熟児網膜症(ROP)と呼ばれていて、詳細は省くけど、網膜の毛細血管が異常に増殖して、最悪の場合は失明を引き起こす厄介な病気です。この発症率を抑制するためには保育器の酸素濃度をむちゃくちゃ厳密に管理する必要がある
今回はその話なわけですね
はい、未熟児網膜症の歴史は小児科医療の発展と深く結びついとります。そのためには保育器の話をしなければならないので、まずはそこから話しますか
はい
保育器のイラスト
まず、保育器という画期的な発明があります。子宮内の安定した環境を再現することで、未熟児の生存率は劇的に向上しました
でもその当時の病院では優生思想や倫理的な抵抗感があったりとかで、そんなに導入が進まなかったらしいんですね
なるほど
そんな背景の中、Martin Couneyという自称医師がですね、資金と注目を集めるために、未熟児を入れた複数台の保育器を見世物として万博や遊園地に展示します
ええ・・・・・・(困惑)
いやまあ、ドン引きなんだけど、観客から取った入場料で運営費を賄って、親からは費用を取らない方針をとったこと。また手段はどうであれ結果的に6,500名以上の赤ちゃんが助かったこと。またそれがきっかけで保育器の病院への導入が進んだことが評価されています
うーん、なるほど・・・うーん、でも、うーん、しかし・・・
まじで彼は調べてもよく分からなかったのよね、自称医者だし・・・
とにかく、こうした努力もあって次第に保育器が病院の設備として普及し始めたことで、低体重の赤ちゃんを救えるようになったのですが、それと同時に未熟児網膜症によって失明する赤ちゃんが多発しました。
救えるようになったからこそ、新しい医学的課題がでてきたと
そうですね。なぜ未熟児網膜症が起こるのか?様々な説が提案される中で模索していくと、保育器内の酸素濃度を高くしすぎたのが原因っぽいということがわかります
なるほど
その当時は酸欠を防ぐ目的で酸素濃度を高くしていたんですね。その反省を活かし今度は酸素濃度を低くしたが、その場合は生存率が低下し脳性麻痺などの重い障害をもつ赤ちゃんの割合が高くなりました
多くの犠牲と試行錯誤の末に、最終的に酸素濃度は高すぎても低すぎてもだめで、非常に繊細な管理をしなければならないというコンセンサスに落ち着いています
ただ繊細に管理したとしてもリスクが減るだけで、完全に予防することはできないわけですよね
そのとおりで、繊細な酸素濃度管理が要求される一方で、それに加えて小児眼科医という専門家が定期的に網膜の毛細血管が異常に成長していないか確認してきます。そしてその兆候があれば早期に発見し、場合によっては介入していく
・・・けど、その診断が特殊技能を必要としていて大変なんですよね
というのは?
まず、瞳孔を開く点眼薬を差します。別にこれは怖くない普通のやつです
次にですね、暴れる赤ちゃんを拘束して、開瞼器という器具を使って強制的にまぶたを開かせます
次に、金属の棒を、まぶたと眼球の隙間に滑り込ませて、眼球をグイグイと圧迫して、隠れた網膜の周辺部を覗き込みます
それを退院するまで定期的に行います
ええ・・・・・・(怖)
いや、そりゃ泣くよって思ったもん。大人でも嫌だよこれは
痛くはないらしいんですけどね。ただ直視できなかったな自分は、怖くて・・・
これってなんか違う方法で検査することってできないんですか?
それが、実はあるっぽいんですね。薬機法の関係で商品名出していいか分からんかったので載せないですけど、調べればでてきます
ぽいというのは?
自分とこの大学病院は無かったのよね。これ使うと眼底検査の画像をデジタルデータの形で撮像できると
じゃあそれ使えば侵襲性の問題は解決する?
どうやらそういうわけでもないっぽいんですよね。普通のカメラとは違って、その装置はカメラを直接眼球に押し当てて十数秒間待機するっぽい
ええ・・・・・・(怖)
遠隔診療が可能となったりデジタルデータの形で残る利点は確実にあるんですけど、眼球に押し当てる手前繊細なスキルが別途必要になるし、赤ちゃんにとってはこの手法もまあまあストレスがかかるという報告もあるし
価格もエグいので、すぐに導入すべき!とは言えない感じもありますね
将来的には非侵襲でできるようになるといいんですけどね
まあそうなんやけど、自分はビジョンの研究者ということになっているので、他人事で片付けるのもなんか負けっぽい感じもするし、悔しいとこですね
あともう一つの重要な問題は、この未熟児網膜症の診断を行う小児眼科医の数が非常に少ないということなんよね
なるほど、それって具体的にどれくらい少ないんですか?
これは一例なんですけど、日本小児眼科学会に登録されている小児眼科医の医師をチェックしてみます
え!??
神奈川県で2名しかいない!???
そうなんですよ、首都圏だと実際は都内の医師が派遣されたりするんでしょうけど、神奈川県レベルの人口でこれですよ。北海道はあの広い土地で1名、石川県は0名。ちょっとびっくりしちゃいました
0名の県が結構あるように見えますが大丈夫なんでしょうか?
わからない・・・ほかに小児眼科医がいるけど登録されていないだけなのか、遠隔診療なのか、それとも他県の大学病院へ転院するのか。皆目見当つかないが、まずいことだけはわかる・・・
小児眼科医って未熟児網膜症だけでなく子どもの目の疾患全般を受け持つスペシャリストじゃないですか。その医師が各都道府県に1名いるかいないかというのは、ゆゆしき問題であるように思えます
まとめ
- 網膜の毛細血管の形成は他の器官と比べて遅いため、未熟児網膜症という疾患にかかりやすい
- 検査方法には侵襲性の問題がある。検査機器はあるものの侵襲性の問題は解決されていない
- そうした小児の目の医療を担う医師の数もたいへん不足している
終わりに
・・・という感じでしたが、最終的には退院できたので、まずは一安心です
それはよかったですね
あとはね、元気で幸せに生きてくれればね、それでいいです、はい
今年ももう終わりそうですが、来年の目標は?
ハーフマラソンと、フルマラソン完走・・・・・・
将来の目標は?
社論簡・・・・・・
くさ
えっじゃあ何すか???研究者はただ論文書いてるだけではダメだけど、でも論文は書けないといけないってことすか?????トップカンファ出した通っただけでキャッキャしてたあの頃は戻ってこないってとすか???????そうでーーーーす!!!それはもっと若い世代がやるべきことなので!!!!!!!!!